平成16年(ネ)第2179号独占禁止法違反行為に対する差止請求控訴事件
控訴人  エアポートプレスサービス株式会社
被控訴人 関西国際空港新聞販売株式会社 外5名

準 備 書 面 (2)

平成17年2月8日

大阪高等裁判所第2民事部4係  御 中

                             控訴人訴訟代理人 弁 護 士       池   上       徹 

                                  同      弁 護 士       岡   野   英   雄 

                                  同      弁 護 士       布   施       裕

                                  同      弁 護 士       宮   永   堯   史

                                  同      弁 護 士       宮   野   皓   次

  原判決の判断を左右した「著しい損害」は,差止事由としての違法性の認定の見地から考慮され,公取委関係の諸説によれば、@市場参入の可能性,A市場退出の現実性などの観点から認定される(「公正取引」No.597,2000.7.29)。
 この観点からの差止事由として,本控訴審で,新たに特筆すべきものは,以下の,第1営業の源泉である新聞供給の閉塞の危険である。そしてまた,もちろん,看過すべからざるは,後述第2「著しい」をもっぱら金銭上の側面で認定した原判決の誤りである。
第1 供給の閉塞による市場退去の危険と「著しい損害」について
  原判決は,独禁法24条に定める「著しい損害を生じ,又は生ずるおそれがあるとき」とは,一審原告(控訴人)が市場に参入できなくなった若しくはそのおそれがあった,又は市場から退出を余儀なくされている若しくはそのおそれがあることが必要であるとした上で,本件においては,本件各取引拒絶を差し止める必要性を基礎づける事情は認められないと判示した。
  しかし,現在一審原告が搭載紙の受注・数量調整及び梱包・荷分けなどの作業を行っているビルの所有権が平成14年9月30日に一審被告株式会社新販(以下「新販」という。)に移転され、更に一審原告に唯一全国紙を供給している株式会社なんばミヤタの発行済株式600株のうちその40%(120株)を同じく新販が取得した上,新販の代表取締役山越壽が平成14年10月4日になんばミヤタの取締役に,新販の取締役清澄哲也及び同西山和広が平成16年4月30日になんばミヤタの取締役にそれぞれ就任しており,現在ではなんばミヤタの取締役4名の内3名までが新販の役員で占められている(甲第31号証の1〜甲第34号証)。
 
  従って,なんばミヤタはいつでも一審原告に対する全国紙の供給を中止しうる立場にあり,且つ,それが可能である。
  ただ,未だになんばミヤタから一審原告への全国紙の供給が継続しているのは,本件訴訟が係属中であり,係属中にストップすれば,たちまち一審原告が市場から退出させられ,ひいては一審原告に「著しい損害」が発生して一審原告が一審被告らに求めている取引拒絶を差し止める必要性が顕在化するからに外ならない。
  よって,現状では一審原告は「市場からの退出を余儀なくされて」はいないが「そのおそれがある」ことは明白であるから,一審原告には一審被告らに本件各取引拒絶を差し止める必要性がある。
  なお、原判決については,実務家からも「『著しい損害』か否かは,結局のところ,裁判所の個別の判断ということになろうが,本件のように,競争者が市場から退出してはいないものの,一定の不利な立場に立たされている場合をいかに解すべきかについては,議論の余地があろう」との批判もあることに留意すべきである(甲第35号証 公正取引委員会官房総務課審決訟務室長補佐伊藤憲二「公正取引」No.648−2004.10.52頁以下参照)。
  ところで,一審原告は,本件訴訟に先立ち,平成6年6月8日公正取引委員会事務局近畿事務所に対し,一審被告関空販社(以下「関空販社」という。)の解散やその余の一審被告らは一審原告との新聞取引を拒絶しないこと等を求める申立を行った。これに対し,一審被告らが,関空販社の定款変更(これが擬装であったことは一審原告が原審で主張しているとおりである。)を平成8年10月30日に公正取引委員会に報告(甲第4号証)したことを受けて,同年12月25日公正取引委員会から一審原告に対し,新聞発行本社及び系列卸売5社らに対する件につき「調査の結果,独占禁止法上の措置は採りませんでしたが,独占禁止法違反につながるおそれのある行為が見られましたので,独占禁止法違反の未然防止を図る観点から関係人に注意しました」旨通知があった。
  ここにいう「独占禁止法違反につながるおそれのある行為」とは何であったかが問題となるところであるが,その筆頭が,関空販社が一審被告卸売5社の全国紙をすべて集約して空港島内で販売していたことであることは言うまでもない(その為,関空販社の定款を変更した。)。それ以外にも,一審被告卸売5社の代理人弁護士間では,いかに述べるような問題点があることを指摘し,一審被告卸売5社に対して法的アドバイスをしていたにもかかわらず,一審被告卸売5社がこれに従っていなかったことが窺われる。
  つまり,平成6年の公取委への申立ての当時,一審被告大読社の代理人であった藤堂弁護士は,即売卸業者については,

(1)

  共同出資により関空販社を設立しているので,各紙卸売が同社にすべてを集中するということになると,共同販売(一種の共同行為)をしようとしていることになる。

(2)

 関空販社の合併設立に関して法第16条の届出がなされていれば問題ないが,それが為されていないとすると,関空販社の設立自体が問題となる可能性がある。

(3)

 関空販社による共販(二次卸)が競走制限的機能を持ちうるかどうかは疑問であるが,届出義務違反があることは否定できない。

(4)

  各系列卸売業がすべて即売業者との間の営業を関空販社に任せるということになると,競争を実質的に制限する合意があるものと認定されるおそれを否定できない。

(5)

 APSが即売業者として参入しようとしているのであれば,関空販社はAPSとの取引を拒絶する理由はないであろう。そうであるならば,即売卸各社は,直接APSと契約しても同じことではないか。
  との意見を表明し,更に,

(1)

  APSは,現在のところ供給責任を果たせる保証のない状態で参入しようとしている。

(2)

 即売卸業者はAPSとの取引を拒絶する理由のない立場にあるので,APSは即売卸業者から紙を仕入れてALに販売することが可能である。その場合には供給責任を果たせる立場になる。
  と述べている(甲第36号証の1・2)。
 また同じく当時,一審被告新販の代理人であった小原弁護士も,「新会社が競争制限的なものでないことを明確にするため,各卸売会社は同一の条件であれば新会社以外の会社(APSを含む)と取引することが望ましい」と述べた上で,この場合に「APSが卸売分として,即売分と同じ搭載紙分や実配分を仕入れ販売することは止められない。この対応は営業による競争によるべきである。」との意見を付している(甲第37号証)。
 つまり,両弁護士とも,卸売各社は即売業者として関空島での全国紙販売に参入しようとしている一審原告に対して,取引を拒絶することは望ましくないとの意見を表明しており,特に藤堂弁護士は関空販社の設立そのものに問題があるのではないかとの疑念を呈しているのである。
10   しかしながら,一審被告卸売5社は現在に至るまでも,両弁護士の指導に従わずに,一審原告との取引を拒絶し続けているのである。
11   この上更に,なんばミヤタから一審原告への全国紙の供給をストップすれば,一審原告が関空島における全国紙の販売(ANAへの搭載紙の販売)が不可能となり,市場から退出せざるを得なくなることは明白であり,そうなれば,一審被告卸売5社の取引拒絶の不当性が表面化するであろうが,一審原告が市場から退出した後に,一審原告が公正取引委員会に対して何らかの措置を求め,公正取引委員会が一審被告卸売5社の取引拒絶の排除を命令したとしても,すでに市場から退出した一審原告が再び関空島で全国紙の販売(搭載紙の販売)をすることは不可能である。
  よって,一審原告がまだ市場から退出していない本件訴訟において,一審被告卸売5社に対して,一審原告との取引拒絶を差し止めることが是非とも必要なのである。
第2 「著しい損害」にかかる原判決の金銭的判断の過誤
 「著しい損害」に対する原判決の判断について

(1)

  原判決5.争点(5)によると,一審原告は,「(2)ほそぼそながらも市場に参入している」,「(3)5%とはいえマージンを得ている」,「(4)共同取引拒絶がなければ50%のシェアを確保できたという事実は認められない」,の3点を理由に「著しい損害」の発生を否定している。

(2)

 しかしながら,一審被告らが,共同取引拒絶という独禁法19条に抵触する行為で,一審原告を排除し,関空市場を独占状態にしてしまった状況下において,一審原告がとるべき方法は,まさしく,「ほそぼそ」と,少ない「5%のマージン」で事業を営むほかない。
(3)   また,シェアの問題で言えば,本件では当初から参入できていたら「50%のシェア」という仮定に基づかざるを得ない。原判決は,その仮定の妥当性の判断をせず,単なる仮定では意味がないと一蹴するが,誤っている。
(4)  原判決によるならば,不公正な競争にて市場を独占してしまえば,その不当に独占された市場に参入したいと願う事業者は,一審原告のように,ほそぼそと,少ないマージンで参入するほかなく,得べかりし利益の立証の手だてもなく,当該市場における不当独占状態は解消されない。もちろん,「著しい損害」の立証も出来ない。かかる筋道を,原判決は考慮していない。それでは,原判決では,独禁法24条は事実上意味のない条文となる。
(5)  独禁法の適用において判断されるべきは,不公正な方法により市場が独占されていなければ,という仮定に基づく主張の妥当性である。
  現在の,不当独占されてしまった状況下の,ほそぼそと,少ないながらもマージンを取っている事実で判断すべきではない。
(6)  とりわけ,一審原告は独占された市場に,後発的に参入しようとしたのではなく,この市場に当初から参入して,関空開港を見据え,関空対岸,臨空島にて会社を設立し,先頭を切ってこの市場に参入し,ANAとの契約を取り付けるなど業容の拡大をはかったところを,一審被告らの取引拒絶にあったものである。
 「著しい損害」の解釈にかかる諸説と公取委の見解

(1)

  「著しい損害」について,各方面の学者からの批判意見等,学説は分かれるところではあるが,解釈が熟成されていない現状では,担当官解説に従うのが最も妥当と考える。
  そこで,前記公正取引No.597−2000.7の執筆担当官である前公正取引委員会事務総局経済取引局総務課企画官東出浩一氏編著「独禁法違反と民事訴訟」において,東出浩一氏は,「著しい損害」の形式的要件について記述している部分を引用する。
<『実際にどのような場合に「著しい損害」と認められるかは,個別のケースにおいて,裁判所が個々に判断することになる。例えば,共同の取引拒絶や拘束条件付き取引,不当廉売のために,事業活動が困難となり,市場に参入することが出来ず,市場からの退出を余儀なくされる恐れがある場合などは,「著しい損害」があると認められると考えられる』>

(2)

 原判決は,一審原告が,ほそぼそながらも,5%のマージンを得ながら,市場への参入を続けているとして,「著しい損害」を認定していない。しかし,この点の原判決の事実認定は,明らかに誤りであり,その誤りは,粗利(売上総利益)と営業利益との違いを認識できていないことに起因する。
  なぜなら,5%のマージンというのは,粗利(売上総利益)であり,およそ企業というものは,粗利(売上総利益)から人件費といった販売費及び管理費といったものを賄い,かつ利益を出すものである。現状,一審原告の新聞部門は赤字である。
  一審原告の現状は,まさしく市場からの退出を余儀なくされる恒常的な赤字状態であり,担当官であった東出氏の解説に照らしても,本件における一審原告はまさしく「著しい損害」を被っているものである。
 「著しい損害」の認定を充足すべき実質的要件
  公正な競争原理のもとであれば,事業者が,他に先んじて市場を独占したとしても,それは正当な企業活動である。
  また,公正な競争のもとにおいて,すでにある事業者が市場をある程度独占した後に,他の事業者が,当該市場に参入できないからと言って,そのこと自体を批判することは認められない。
  しかし本件では,一審原告がすでに参入を果たしている市場において,一審被告らが,一審原告の事業活動を不公正な方法により阻害したものである。
  したがって,本件における「著しい損害」のポイントは,
@  一審原告の関空島における市場参入時期はいつか?
A  一審原告と一審被告らとが公正な条件の下で競争できたか?
の点であり,この点について検討する。

@
一審原告の空港島における市場参入時期はいつか?
 一審原告は空港開港前から,会社を設立し,関空島での市場参入を狙い,関空対岸臨空島にて,営業活動を行っていた。
  すなわち,一審被告関空販社が市場原理に基づき市場を独占する前に参入する体制を整えていた(ANA国際線への納入契約を終結できたことは,このことを裏付けするものである。
  よって一審原告の市場参入時期は,その将来の業容展開において,十分の発展の可能性を期待できる時期であった。

A
一審原告と一審被告らとが公正な条件の下で競争できたか?
 一審原告は,関空開港前から,空港島における新聞販売市場への参入を目指していたが、関空開港前から,約3年間,一審被告らより取引拒絶にあう。なんばミヤタの好意により,なんばミヤタ経由で,ある程度の部数の確保は出来たが,必要な部数の確保は出来なかった。
 まさしく,公平公正なる条件のもとでの競争を行うことが出来なかった。
  この取引拒絶により被った影響は,以下4「著しい損害」発生の端緒にて改説する。
  上記の@・Aの事実から,実質的に「著しい損害」を被ったといえる一審原告は,一新被告らに対し,損害賠償請求権を有する。
 「著しい損害」発生の端緒

(1)

 関空島における最大の得意先は航空会社である。そして,同時期に市場に参入した一審原告と一審被告らにとっては,如何に航空会社との取引を勝ち取るかが全てである。
  一審原告は,関空開港前から航空会社(JAL JAS ANA)に対し納入を図るべく営業活動を行っていた。
  ANA国際線への納入が出来ているという事実が,実際に営業活動を行っていたことを如実に物語るものである。

(2)

 しかしながら,前述のように,開港時から約3年間,一審被告らより取引拒絶にあう。なんばミヤタの好意により,なんばミヤタ経由で,ある程度の部数は確保できたが,なんばミヤタに対する,不当な部数制限から前述航空3社全てに納入依頼を働きかけることは出来ず(納入契約が終結出来ても納入に足る部数を不当な部数制限により確保できないため),結果ANA国際線への納入にとどまった。

(3)

 不当な取引拒絶がなければ,ANA国際線のみならず,他航空会社との間で,納入契約を終結できていた可能性を排除できない。
  取引拒絶及びなんばミヤタに対する部数制限を行っていた3年の間に,一審被告関空販社は,航空各社への納入を不当に勝ち取り市場を独占してしまった。

(4)

 公取の注意処分の後は,一審被告らのなんばミヤタへの新聞供給量において従前の部数制限がなくなったが,もはやこの時点では,既に関空販社による不当な市場独占が完了しており,後から一審原告の割って入る余地は事実上困難となっていた(いったん納入業者を決めた航空会社が,そうやすやすと納入業者を変更することは非常に難しい)。
 損害賠償の基礎となるシェアについて
 関空開港と同時に取引拒絶されてなければ,空港島では,一審原告と一審被告関空販社の2社しか新聞の販売を扱っていなかったのであるから,シェア50%を取れていたというのは,仮定とはいえ,妥当なものである。
  前述のように,大企業であるANAに納入できている事実からいっても根拠のない仮定ではない。
  よって逸失利益はシェア50%を前提とするのが妥当と考える。
 損害賠償請求額(逸失利益額)
  述のとおり,現在においては,公取の注意処分により,一審被告らによるなんばミヤタへの新聞供給の部数制限はなくなり,一審原告はなんばミヤタ経由にて,部数制限無く仕入を行うことは出来る。
 しかしながら,一審被告関空販社は,前述のように,不当に市場を独占しており,今更航空会社に対し,一審被告関空販社から契約を一審原告に変更してもらうことは事実上不可能といってよい困難な状況にある。一審原告の被った逸失利益額相当の損害額は以下のとおりである。
〔損害賠償算定額の前提〕
  ※一身被告ら側の数値等につき相違があれば,一審被告ら側の反論をもて算定し直す
  ※定価:@130円と仮定
  ※仕切価格:定価の70%=91円
  ※一審原告の販売価格:定価の80%=104円
  ※粗利:104円−91円=13円
  ※期間:H6/9〜H16/12(112ヶ月)

<搭載紙における逸失利益=損害賠償請求額>

 粗利13円×135,000部×112ヶ月=196,560,000円