平成16年(ネ)第2179号 独占禁止法違反行為に対する差止請求控訴事件

直送済

控訴人   エアポートプレスサービス株式会社
被控訴人  株式会社大読社 外5名

準備書面1


平成17年3月4日

大阪高等裁判所第2民事部4係  御 中

被控訴人株式会社大読社訴訟代理人      

     弁護士     寺  上  泰  昭  

      〃      岩  下  圭  一  

      〃      佐  藤  水  暁  


  被控訴人大読社は、控訴人の平成17年2月8日付け準備書面(2)(以下「控訴人準備書面(2)」という。)に対し、必要な範囲において以下のとおり反論する(なお、本書面において用いる固有名詞等の略称は、特段の断りがない限り、被控訴人大読社の答弁書と同様である。)。
第1 控訴人準備書面(2)、第1「供給の閉塞による市場退去の危険と『著しい損害』」について
 1 なんばミヤタの控訴人に対する全国紙の供給が中止される可能性について
  控訴人は、「なんばミヤタはいつでも一審原告に対する全国紙の供給を中止しうる立場にあり、且つ、それが可能である。ただ、未だになんばミヤタから一審原告への全国紙の供給が継続しているのは、本件訴訟が係属中であり、係属中に供給をストップすれば、たちまち一審原告が市場から退出させられ、ひいては一審原告に『著しい損害』が発生して一審原告が一審被告らに求めている取引拒絶の差し止める必要性が顕在化するからに外ならない。よって、現状では一審原告は『市場からの退出を余儀なくされて』はいないが『そのおそれがある』ことは明白であるから、一審原告には一審被告らに本件各取引拒絶を差し止める必要性がある。」(控訴人準備書面(2)、第1、3、2〜3頁)と主張している。
  しかし、供給者が供給を中止しうる立場にあることは、相対の商取引である以上、どのような取引においても妥当するごく当たり前の一般論を述べているに過ぎず、何ら差し止めの必要性を認める根拠となり得るものではない。現に、控訴人からは、株式会社なんばミヤタから一方的に全国紙の供給を中止された等という具体的事実の主張、立証は一切なされておらず、逆に、客観的事実として株式会社なんばミヤタから控訴人への全国紙の供給が長期間にわたって安定して継続しているのであるから、単に、極めて一般的かつ抽象的な可能性だけを根拠に「そのおそれがある」と主張する控訴人の主張が失当であることは明らかである。
  2 平成6年の控訴人の公正取引委員会に対する申告について
  控訴人は、平成6年当時の被控訴人らの代理人弁護士の意見を引用し、「つまり、両弁護士とも、卸売各社は即売業者として関空島での全国紙販売に参入しようとしている一審原告に対して、取引の拒絶することは望ましくないとの意見を表明しており、特に藤堂弁護士は関空販社の設立そのものに問題があるのではないかとの疑念を呈しているのである。」(控訴人準備書面(2)、第1、9、5頁)等と主張している。
  しかし、控訴人の上記主張は、平成6年当時の即売会社の各代理人の意見を自己に都合よく曲解したものであり、明らかに失当である。特に、被控訴人大読社の代理人であった弁護士藤堂裕の意見についての控訴人の理解は、明らかな誤りである。すなわち、控訴人自らも引用している「関空販社の合併設立に関して法第16条の届出がなされていなければ問題ないが、それが為されていないとすると、関空販社の設立自体が問題となる可能性がある。」(甲第36号証の2、1枚目)との記載内容からも明らかなとおり、同代理人が指摘している関空販社の設立の問題点とは、独占禁止法16条2項の規定する届出義務に違反しているという手続違反にあるのであって、競争の実質的制限や公正競争阻害性を問題としているのではない。このことは、同意見のまとめの部分において、「関空販社の機能が明確に位置付けられることになれば、法第16条違反は手続違反だけとなる。」(甲第36号証の2、2枚目)とされていることからも明白であろう。
  なお、原審でも主張しているが、公正取引委員会から控訴人に対して送られた平成8年12月25日付け通知書(甲第5号証)において、「独占禁止法違反につながるおそれのある行為がみられましたので、独占禁止法違反の未然防止を図る観点から関係人に注意しました。」(太字ゴシック下線は、被控訴人大読社による。)と記載されていることからも明らかなとおり、平成8年に行われた公正取引委員会による「注意」は、独占禁止法違反行為の存在が認められなかったことを前提とした行政指導であって、何ら控訴人が本件訴訟の請求原因事実として主張している被控訴人らの共同取引拒絶行為の存在を証明、推認し得るものではないことを念のために指摘しておく。
  また、控訴人は、「しかしながら、一審原告卸売5社は現在に至るまでも、両弁護士の指導に従わずに、一審原告との取引を拒絶し続けているのである。」(控訴人準備書面(2)、第1、10、5頁)と主張しているが、原審においても繰り返し主張しているとおり、被控訴人大読社は、平成6年1月29日以降、平成15年5月1日付けの取引申し込みを受けるに至るまで9年以上もの間、控訴人から新聞の卸売取引の申し込みを受けた事実は一切ないから(このことは証拠上も明らかである。)、「一審原告との取引を拒絶し続けている」との控訴人の主張は明らかに事実に反するものであり、全く理由がない。
第2 控訴人準備書面(2)、第2「『著しい損害』にかかる原判決の金銭的判断の過誤」について

 1「『著しい損害』に対する原判決の判断について」について
  控訴人は、独占禁止法24条の要件である「著しい損害」の有無に関する原判決の決断について、「原判決5.争点(5)によると、一審原告は、『(2)ほそぼそながらも市場に参入している』、『(3)5%とはいえマージンを得ている』、『(4)共同取引拒絶がなければ50%のシェアを確保できたという事実は認められない』、の3点を理由に『著しい損害』の発生を否定している。」(控訴人準備書面(2)、第2、1、(1)、6頁と分析し、同分析を前提として原判決を批判している。
  しかし、控訴人の上記主張は、原判決の判示内容を曲解するものであり、誤った原判決の理解に基づいて主張を展開するものであるから、全く理由がない。
  まず、そもそも、原判決は、その理由中の判断において、「(2)ほそぼそならも市場に参入している」等という表現を用いた判断はどこにも示していないから、原判決が「(2)ほそぼそながらも市場に参入している」ことを理由に「著しい損害」を否定したことについて批判する控訴人の上記主張は全くの見当違いである。
  次に、原判決は、「既に市場に参入し5パーセントとはいえマージンを得ている原告が単に共同取引拒絶がなければより大きな利益をあげることができたというだけでは、差止めを認めるに足りる『著しい損害』に当たるとはいえないというべきである。」(太字ゴシック下線は、被控訴人大読社による。原判決19頁)と判示しているのであって、「(3)5%とはいえマージンを得ている」ことから直ちに「著しい損害」の発生を否定しているわけではないから、「(3)5%とはいえマージンを得ている」ことを理由に「著しい損害」を否定したことについて論難する控訴人の上記主張には全く理由がない。
  さらに、控訴人は、「シェアの問題で言えば、本件では当初から参入できていたら『50%のシェア』という仮定に基づかざるを得ない。原判決は、その仮定の妥当性の判断をせず、単なる仮定では意味がないと一蹴するが、誤っている」(控訴人準備書面(2)、第2、1、(3)、6頁)等と主張しているが、原判決は、「もっとも、本件全証拠によっても、本件各取引拒絶がなければ原告が空港島において少なくとも50パーセントのシェアを占めることが出来たはずであるという事実自体認められない。」と判示していることからも明らかなとおり、「単なる仮定では意味がないと一蹴」しているわけではなく、その仮定の内容が証拠に照らして合理的に推認できるかどうか、すなわち、控訴人のいうところの「仮定の妥当性の判断」をした上で「著しい損害」を否定しているのであるから、控訴人の上記主張には全く理由がない。

 2「『著しい損害』の解釈にかかる諸説と公取委の見解」について
  控訴人は、「『著しい損害』について、各方面の学者からの批判意見等、学説は分かれるところではあるが、解釈が熟成されていない現状では、担当官解説に従うのが最も妥当と考える。」(控訴人準備書面(2)、第2、2、(1)、7頁)と主張している。
  しかし、まず、控訴人の上記主張は、何の説明もなく、突如として独占禁止法24条の「著しい損害」の要件に関する解釈を変更するものであり、著しく不当である。仮に、被控訴人大読社の平成17年1月13日付け答弁書における「原判決の示した独占禁止法24条の解釈及び本件事案における具体的な判断はいずれも正当であり、公正取引委員会の担当官による解説を不当に蔑ろにし、控訴人独自の見解に基づいて原判決を論難する控訴人の主張は失当である。」との反論を受けて法律解釈を改めたのだとすれば、控訴理由書において従前の解釈を前提にしていた主張を全て撤回するという趣旨なのか否か、全く不明であるが、いずれにしても、担当官解説を前提とするのであれば、まさに原判決の判示するとおり、「原告は、本件各取引拒絶後から現在に至るまで、なんばミヤタから、全国紙を定価の75パーセントの価格で仕入れ、空港島において、売店・ラウンジ等に対して1か月平均約800部を、全日空に対して1か月平均3万部を、いずれも定価の80パーセントで販売しているものであり、本件全証拠によっても、本件各取引拒絶によって、原告が市場に参入できなくなった若しくはそのおされがあった、又は市場からの退出を余儀なくされている若しくはそのおそれがあるなど、本件各取引拒絶を差し止める必要性は基礎付ける事情は認められない。」から、控訴人の主張は失当である。
  この点、控訴人は、「原判決は、一審原告が、ほそぼそながらも、5%のマージンを得ながら、市場への参入を続けているとして、『著しい損害』を認定していない。しかし、この点の原判決の事実認定は、明らかに誤りであり、その誤りは、粗利(売上総利益)と営業利益との違いを認識できていないことに起因する。なぜなら、5%のマージンというのは、粗利(売上総利益)であり、およそ企業というものは、粗利(売上総利益)から人件費といった販売費及び管理費といったものを賄い、かつ利益を出すものである。現状、一審原告の新聞部門は赤字である。一審原告の現状は、まさしく市場から退出を余儀なくされる恒常的な赤字状態であり、担当官であった東出氏の解説に照らしても、本件における一審原告はまさしく『著しい損害』を被っているものである。」(控訴人準備書面(2)、第2、1、(2)、8頁)と主張している。
  しかし、控訴人が主張する本件共同取引拒絶から10年以上が経過した現在も市場に留まって取引を継続しているという客観的事実が存在しているのであるから、この一事をもってしても「市場からの退出を余儀なくされるおそれがある場合」に該当しないことは火を見るよりも明らかであり、控訴人の主張は、いみじくも原判決が判示しているとおり、単により大きい利益をあげたいという願望をもって「著しい損害」に該当すると主張しているに等しく、およそ理由がない。

 3「『著しい損害』の認定を充足すべき実質的要件」について
  控訴人は、「本件における『著しい損害』のポイントは、@一審原告の関空島における市場参入時期はいつか?A一審原告と一審被告らとが公正な条件の下で競争できたか?の点であり、この点について検討する。」(控訴人準備書面(2)、第2、3、9頁)として、控訴人の掲げる2つのポイントについて縷々主張している。
 しかし、控訴人の上記主張は、控訴人独自の見解に基づいた主張であり、独占禁止法24条の規定する「著しい損害」の要件との関係でどのような意味を有する主張であるのか不明であり、理由がない。

 4「『著しい損害』発生の端緒」について
  控訴人は、「不当な取引拒絶がなければ、ANA国際線のみならず、他航空会社との間で、納入契約を終結できていた可能性を排除できない。取引拒絶及びなんばミヤタに対する部数制限を行っていた3年の間に、一審被告関空販社は、航空各社への納入を不当に勝ち取り市場を独占してしまった。」(控訴人準備書面(2)、第2、4、(3)、10頁)と主張している。
  しかし、被控訴人大読社は、平成6年1月29日以降、平成15年5月1日付けの取引申し込みを受けるに至るまで9年以上もの間、控訴人から新聞の卸売取引の申し込みを受けた事実は一切なく(このことは証拠上も明らかである。)、また、被控訴人大読社の株式会社なんばミヤタに対する読売新聞の供給量は、納品数・実売数共に一貫して増加しており(乙ウ第6号証)、被控訴人大読社が株式会社なんばミヤタに対する部数制限を行った事実も一切存在しないから、控訴人の上記主張は、一方的な控訴人の思い込みに基づく空想であり、およそ理由がない(ちなみに、全国紙5紙の販売業務を一切行っていない被控訴人関空販社が空港島における全国紙5紙の販売を独占できるはずがないことは言うまでもない。)。

 5「損害賠償の基礎となるシェアについて」について
  控訴人は、「関空開港と同時に取引拒絶されてなければ、空港島では、一審原告と一審被告関空販社の2社しか新聞の販売を扱っていなかったのであるから、シェア50%を取れていたというのは、仮定とはいえ、妥当なものである。前述のように、大企業であるANAに納入できている事実からいっても根拠のない仮定ではない。よって逸失利益はシェア50%を前提とするのが妥当と考える。」(控訴人準備書面(2)、第2、5、11頁)と主張している。
  しかし、控訴人の上記主張は、結局のところ「2社しか新聞の販売を扱っていなかったのであるから」、「大企業であるANAに納入できている事実から」等というおよそ合理性のない根拠に基づいた単なる空想に過ぎないから、「本件全証拠によっても、本件各取引拒絶がなければ原告が空港島において少なくとも50パーセントのシェアを占めることが出来たはずであるという事実自体認められない。」と判示した原判決は極めて正当であり、控訴人の上記主張には理由がない。

 6「損害賠償請求額(逸失利益額)について
  控訴人は、「一審原告の被った逸失利益額相当の損害額は以下のとおりである。」(控訴人準備書面(2)、第2、6、11頁)と主張し、損害賠償額の算定根拠を縷々説明している。
 しかし、そもそも、本件訴訟は、独占禁止法24条に基づく差止請求訴訟であり、損害賠償請求訴訟ではないから、損害賠償請求額として主張する意味が不明であり、かつ、損害賠償請求訴訟の算定根拠にも何ら理由がない(例えば、控訴人は、空港島において控訴人と被控訴人関空販社2社しか新聞の販売を扱っていないと主張しながら、控訴人準備書面(2)、第2、6、11頁の表(イ)「現状の市場シェア」に記載された両者のシェアを合計しても99.1%にしかならず、主張自体失当である。)。仮に、「著しい損害」を基礎付ける事実として具体的な金額を主張しているのだとしても、「著しい損害」の有無については、控訴人自らが主張しているとおり、「共同の取引拒絶や拘束条件付取引、不当廉売のため、事業活動が困難となり、市場に参入することができず、あるいは、市場からの退出を余儀なくされるおそれがある場合などは、『著しい損害』があると認められると考えられる。ところ、本件においては、原判決が判示するとおり、「本件全証拠によっても、本件各取引拒絶によって、原告が市場に参入できなくなった若しくはそのおそれがあった又は市場からの退出を余儀なくされている若しくはそのおそれがあるなど、本件各取引拒絶を差し止める必要性を基礎づける事情は認められない。」(原判決19頁)ことは明らかであるから、控訴人の上記主張には全く理由がない。

以上