平成16年(ネ)第2179号 独禁法違反行為に対する差止請求訴訟事件
控 訴 人 (1審原告)  エアポートプレスサービス株式会社
被控訴人(1審被告)  株式会社新販 外5名

答 弁 書

平成17年1月13日

大阪高等裁判所第2民事部4係  御中

                                 〒530−0003
                                 大阪市北区堂島1丁目1番5号
                                 梅田新道ビルディング8階
                                 弁護士法人大江橋法律事務所(送達場所)
                                 電 話 06−6341−0461
                                 F A X  06−6347−0688
                                 被控訴人株式会社新販訴訟代理人
                                   弁 護 士    魚    住    泰    宏

                                   弁 護 士    長    澤    哲    也

                                   弁 護 士    浅    田    和    之



第1  控訴の趣旨に対する答弁
  被控訴人株式会社新販に対する本件訴訟を棄却する。
  控訴費用は、控訴人の負担とする
との判決を求める。
第2  控訴の理由に対する認否
 控訴人の平成16年8月6日付け控訴理由書に対する被控訴人新販の認定は以下のとおりである。なお、固有名詞等の略称については、特段の断りがない限り原判決の記載と同様である。
  控訴理由書1について
  原判決が、同(1)ないし(3)のとおり認定していることは認める(但し、同(2)はあくまでも被控訴人関空販社の設立当初の活動について述べたものにすぎない。)
  その余は否認ないし争う。原判決は、被控訴人卸売会社らが一般指定1項にい
う共同取引拒絶を行った旨の認定を一切行っていない。
  控訴理由書2について
  被控訴人新販の認定の限りではない。
  控訴理由書3について
  原判決に同記載が存在することは認める。
  控訴理由書4について
  谷原修身『独占禁止法と民事的救済制度』151−152頁(中央経済社、平15)において同様の論述がなされていることは認める。
 控訴理由書5について
  淡路剛久ほか「座談会・民事的救済制度の整備について」公正取引597号15−16頁において、控訴人の指摘する発言が行われていることは認める。
  控訴理由書6について
  被控訴人関空販社が、平成8年6月25日開催の株主総会において定款を控訴人が指摘するとおり変更したこと、原判決が、被控訴人らの原審における主張を受け、控訴人はなんばミヤタから現に全国紙を仕入れている旨認定していること、原判決が、控訴人が「5パーセントとはいえマージンを得ている」ことを指摘していること、原判決が、「著しい損害」該当性を否定していることは認める。その余は否認ない旨争う。
 平成8年の公正取引委員会による注意は、独占禁止法違反行為の存在を前提とするものではないし、被控訴人関空販社は、定款変更後、全国紙の販売を行っていない。全国紙の販売は、被控訴人卸売会社らが各社独自に行っている。
第3  被控訴人新販の主張
  控訴人は、独占禁止法24条の「著しい損害」の要件について、この要件の存在につき批判的な学説を紹介し、「相手方の違法性の程度・態様、相手方が差止めによって蒙る損害の程度、差止請求者が蒙っている損害及びその程度を比較考慮して判断すべきである」と主張したうえで、本件では、
@  卸売5社が、被控訴人関空販社の定款を「全国紙の販売」から「全国紙の仕訳、包装、配送、代金回収業務」に変更したにもかかわらず、(被控訴人関空販社が)以後も全国紙の販売を継続していることは、公正取引委員会を欺く悪質な行為であること。
A 控訴人は被控訴人卸売会社らに対し被控訴人関空販社に対する価格よりも低い価格で売却せよとまでは求めておらず、控訴人の求める本件差止請求が認められたとしても、被控訴人卸売会社らに何らの損害も生じないこと、
B 被控訴人卸売会社らはなんばミヤタに対して全国紙の卸売をいつ中止するか予断を許さず、本件共同取引拒絶によって、控訴人は空港島内における全国紙の販売につき、常に納入打ち切りの不安を抱えており、いつ撤退してもおかしくない事態に陥っていること、及び
C   控訴人は被控訴人卸売会社らから仕入れることができないために、得べかりし利益の半分を失っているのであり、たとえその「額」が少なくとも控訴人にとっては「著しい損害」であること
から、控訴人には「著しい損害」があると主張する。
  しかしながら、独占禁止法24条の文理及びその立法趣旨にかんがえみれば、控訴人の解釈は成り立ち得ないものであり、また、「著しい損害」が存在するとして控訴人が主張する各事実は、いずれも「著しい損害」に当たるとはいえないものである。
 「著しい損害」の要件について
  独占禁止法24条は、独占禁止法違反行為に対する差止請求の要件として、独占禁止法8条1項5号又は19条の規定に違反する行為によってその利益を侵害され、又は侵害されるおそれがある者につき、これにより「著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがある」ことが必要であると明記している。このように、独占禁止法24条の文理上、「著しい損害」の要件が加重されていることは明らかであり、この要件を空文化するような解釈は立法論であると言わざるを得ない。
  独占禁止法24条の規定する差止請求権は、「私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の一部を改正する法律」(平成12年法律第76号)(以下「改正法」という。)によって創設されたものであるが、改正法案策定に先立ち、公正取引委員会は、「独占禁止法違反行為に係る民事的救済制度に関する研究会」を開催している。同研究会は、差止請求制度の導入等について検討した結果を、平成11年10月、「独占禁止法違反行為に係る民事的救済制度について」と題する報告書(以下「研究会報告書」という。)で公表した。改正法案はこの研究会報告書に基づいて成文化され、第147回国会で全会一致で可決・成立に至ったものである。(最高裁判所事務総局行政局監修『独占禁止法関係訴訟執務資料』(法曹会、平13)1−2頁)
 研究会報告書では、まず、差止請求権と独占禁止法との関係について、次のように、独占禁止法に違反する行為と適法な行為との境界を見定めることが容易ではないことを考慮した上で、私人による差止請求権の要件を設定すべきであるとされている。
  「独占禁止法の運用を専門に行う行政機関として公正取引委員会が置かれ、同法の運用については、法律又は経済に関する学識経験のある者の中から任命された委員長及び委員が、職権行使の独立性を有しつつ、合議によって意思決定を行うこととなっている。
 また、独占禁止法違反に関する訴訟手続等について、特別の制度が定められている。
  これは、独占禁止法は、市場経済における企業活動の基本ルールを定めたものであり、同法に違反するか否かは行為の外形によって決まるものではなく、当該行為の市場における競争に対する影響を個別具体的に判断した上で決するものであるので、複雑多岐で、かつ、変化し続ける経済現象の中での同法の運用は、中立性、継続的一貫性、専門性をもって適切に行われることが是非とも必要であるためである。
 したがって、差止訴訟制度を導入するに当たっては、私人の差止請求権の要件、差止めの対象となる違反行為、公正取引委員会と裁判所との関係等を検討するに際し、上記のような趣旨が損なわれないよう考慮する必要がある。」
                                       (研究会報告書第1章第1の2 (8-9頁)〔乙イ8号証〕)
  その上で、研究会報告書は、私人による差止請求権の要件につき、次のように述べ、独占禁止法違反行為のうち高度の違法性を有する行為についてのみ差止請求権が認められるべきであるとしている。
  「一般に、差止めを認容するには、損害賠償を認容する場合よりも高度の違法性を要すると解されており、差止訴訟制度を導入するに当たっても同様に考えられるが、どういう場合が該当すると考えるべきかは、独占禁止法違反行為が公益を侵害するものである点を踏まえて判断する必要がある。
  また、独占禁止法違反行為は多様であり、個別の事案によって、あるいは、被害者の立場によって、被害の性質も区々となるので、どのような要素が認められる場合に金銭賠償に加え差止めによる救済が必要と認められるかという問題がある。
  この点については、まず、・・・市場から排除されるおそれがある場合や、新規参入が阻止されている場合など、独占禁止法違反行為によって回復し難い損害が生じる場合には、差止めを認めることが適当であると考えられる。
  また、このような場合だけでなく、金銭賠償では救済として不十分な場合、例えば、排他条件付取引や拘束条件付取引のように、違反行為が取りやめられなければ、取引の機会が奪われ、あるいは取引先選択の自由が侵害される場合などにも、差止めを認めることが適当ではないかとの考え方もある。」
                   (研究会報告書第1章第2の1(2)(9−10頁)〔乙イ8号証〕)
  そして、改正法案の審議においても、公正取引委員会の根來泰周委員長(当時)は、次のように答弁し、日常の一般取引が不公正な取引方法に該当するというだけで私人による差止請求を認めるべきではなく、「著しい損害」の要件は、不公正な取引方法に該当する行為の中でとりわけ違法性の強い行為について私人による差止請求権を認める趣旨で書き加えられたものであることを明らかにしている。
 「一般の取引というのは日常行われているところでございまして、その取引をオーバーしたオ時には不公正な取引方法と言うことに相なるわけでございますが、ただ、差しとめ請求を求めるからには、ただオーバーしたというだけではなかなか差しとめ」請求するのはまずかろう。そういうことで、「著しい」というある網では、規範的な構成要素をつけ加えたのでございます。
  ですから、非常に違法性の強いというふうにご理解いただければ、具体的案件で対処できるのではないかと思っております。」
                                      (第147回国会衆議院商工委員会会議録第12号28頁〔乙イ9号証〕)
  また、公正取引委員会事務総局経済取引局の山田昭雄局長(当時)は、改正法案の審議において次のように答弁し、「著しい損害」の要件の該当性は、もっぱら被侵害者側の損害の質及び量が著しいか否かで判断され、共同取引拒絶のケースでは、それによって市場に参入できないか又は事業活動が困難になる場合に「著しい損害」があると認められることを明らかにしている。
 「著しいとはどういうことかと申しますと、個々の被害者の損害の質、量において著しいことを意味しておりまして、終局的に、最後になって金銭賠償ということが可能であっても、損害の質、量において著しいと判断される場合にはその要件に当たるというように考えておるわけでございまして、実際の取引拒絶や排他条件つき取引によりまして市場参入できないとか、あるいは事業活動が困難になるというような場合が当たるかと思います。」
  「また、著しい損害の不利益ということについきまして、被告側の差しとめによりまして受ける不利益との比較考慮ががされるかどうかということでございますが、著しい損害であるかどうかということは裁判所が個々に判断することであるということでございまして、やはり受ける侵害の程度あるいは守るべき法益ということにかんがみまして著しいかどうか、質、量によって判断するということであるかと思います。」
                  (第147回国会参議院経済・産業委員会会議録第15号4頁〔乙イ10号証〕)
  以上のように、独占禁止法違反行為、とりわけ、不公正な取引方法に該当する行為は、行為の外形によって決るものではなく、当該行為の市場における競走に対する影響を個別具体的に判断し、かつ、変化し続ける経済現象の中で決せられるものであって、正当な企業活動と独占禁止法違反行為との区別が容易でないことにかんがみ、私人による差止請求によって正当な企業活動が萎縮することのないよう、差止請求権の要件に「著しい損害」を加えたというのが立法の趣旨である。
  したがって、「著しい損害」要件は、改正法の立法趣旨からしても、差止請求の対象となる不公正な取引方法該当行為を限定的に抽出するための加重要件であると解釈されなければならないのであり、「幅広い行為が独禁法19条に違反する行為として取り上げられる可能性があることから、独禁法24条は、そのうち差止めを認める必要がある行為を限定して取り出すために著しい損害の要件を定めたものと解される」と判示する原判決は妥当である。
  私人による差止請求を活発に機能させるべきであるあら「著しい損害」の要件を一般条項として理解し、差止めによる不利益など侵害者側の事情を被侵害者側の事情と併せ考慮して判断すべきであるとの議論は、立法論としてはあり得るとしても、現行法の解釈としては、独占禁止法24条の文理及びその立法趣旨を無視するものであり、成り立ち得ないものである。
  本件における「著しい損害」の存否について
  いかに述べるとおり、「著しい損害」が存在するとして控訴人が主張する各自実は、いずれも「著しい損害」に当たるとはいえないものであり、控訴人には「著しい損害」は認められない。
(1)  被控訴人ら側の事情について
 控訴人の主張する事実のうち、@被控訴人らが公正取引委員会を欺く行為をしていること及びA差止めが認められても被控訴人らには何らの損害も生じないことについては、その真偽はともかく、控訴人の主張を前提としても、いずれも侵害者側の事情であり、上記のとおり、控訴人の「著しい損害」を基礎付ける事情とはならない。
(2)   なんばミヤタとの取引の不安定性について
  平成6年以降現在に至るまで、被控訴人卸売会社らが共同してなんばミヤタに対し圧力をかけたことを示す証拠は一切存在しないばかりか、控訴人自身、平成9年1月以降、被控訴人卸売会社らがなんばミヤタに対し、何らの妨害行為を行っていないことを自認している(甲23号証報告書8頁)。控訴人は、平成6年から現在に至るまでの10年以上に亘って、なんばミヤタとの間で取引を継続しているのであり、「いつ卸売5社がなんばミヤタに全国紙の卸売を中止するか予断を許さず、常に納入打ち切りの不安をかかえたままである」との控訴人の主張は、全く根拠がない。
(3)   5パーセントのマージンを失うことについて
  控訴人は、本件各取引拒絶がなければ、被控訴人卸売会社らから定価の70パーセントの価格で全国紙を仕入れることができるのに、本件各取引拒絶によって、定価の75パーセントの価格で全国紙を仕入れざるを得なくなり、5パーセントのマージンを得ることができないのであり、零細企業である控訴人にとっては死活問題であるから、控訴人には「著しい損害」があると主張する。
  この主張は、被控訴人卸売会社らが、控訴人に対し、被控訴人関空販社と同等の価格で全国紙を販売しなければならないことを前提として初めて成り立つものである。
  しかし、仮に本件各取引拒絶が一般指定1項に該当し、その違法状態が現在も解消されていないとしても、被控訴人卸売会社らが、控訴人に対し、被控訴人関空販社と同等の価格で全国紙を販売しなければならない義務を負うものではない。被控訴人卸売会社らの取引先に対する全国紙の販売価格は、販売数量の多寡、決済条件、信用力、資本関係の有無、取引年数等々、様々な経営上の判断要素を総合考慮してそれぞれ決定されるものである。そして、独禁法24条に基づき相手方に直接的な作為義務を課すことは不適法であると解釈されているのであり(東京地判平16・4・15判時1872号69頁)、控訴人は、被控訴人卸売会社らに対し、独占禁止法に基づき、被控訴人関空販社と同等の価格で全国紙を販売することを請求することはできないし、さらに言えば、控訴人がなんばミヤタから仕入れている価格よりも低い価格で販売することを請求することもできない。
  したがって、控訴人が、共同取引拒絶がなければ現在よりもより大きいマージンを得ることができるはずであるという主張は、根拠のない期待であり、その期待をもって「著しい損害」に該当するとは到底いえない。
  結論
  よって、控訴人には、独禁法24条に基づく差止請求の要件である「著しい損害」が認められないのであるから、控訴人の請求を棄却した原判決は妥当であり、本件控訴は棄却されるべきである。
第4  証拠の表示
  乙イ8号証
独占禁止法違反行為に係る民事的救済制度に関する研究会「独占禁止法違反行為に係る民事的救済制度の整備について」(平成11年10月)より第1章第1の2(独占禁止法との関係)及び同第2の1(2)(他の救済手段との関係)部分の抜粋
 乙イ9号証
第147回国会衆議院商工委員会会議録第12号より抜粋(28頁)
  乙イ10号証
第147回国会参議院経済・産業委員会会議録第15号より抜粋(4頁)

以上