一審判決の目次

判決

主文

事実及び理由

第1 請求

第2 事案の概要
  1 当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
    (1)当事者等
    (2)京阪神地区における新聞の流通経路等
    (3)被告関空販社の設立
    (4)本件各取引拒絶
    (5)原告から公正取引委員会への報告等
  2 争点
    (1)原告適格及び訴えの利益の有無
    (2)被告関空販社についての共同取引拒絶の成否
    (3)被告関空販社を除く被告らによる本件各取引拒絶についての共同の有無
    (4)本件各取引拒絶の違法性の有無
    (5)著しい損害の有無
  3 争点に対する当事者の主張
    (1)争点(1)(原告適格及び訴えの利益の有無)について
    (2)争点(2)(被告関空販社についての共同取引拒絶の成否)について
    (3)争点(3)(被告関空販社を除く被告らによる本件各取引拒絶についての共同の有無)について
    (4)争点(4)(本件各取引拒絶の違法性の有無)について
    (5)争点(5)(著しい損害の有無)について

第3 当裁判所の判断
  1 事実の認定(前記第2の1の関係証拠(甲23、24号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば以下の事実が認められる)
    (1)京阪神地区における新聞の流通経路等
    (2)原告の本件取引各拒絶前の新聞販売状況
    (3)被告関空販社の設立当初の活動
    (4)本件各取引拒絶
    (5)本件定款変更
    (6)原告の本件各取引拒絶後の新聞販売状況
  2 争点(1)(原告適格及び訴えの利益の有無)について
  3 争点(2)(被告関空販社についての共同取引拒絶の成否)について
  4 争点(3)(被告関空販社を除く被告らによる本件各取引拒絶についての共同の有無)について
  5 争点(5)(著しい損害の有無)について
    (1).
    (2).
    (3).
    (4).
    (5).
    (6).

6 結論



平成16年6月9日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成14年(ワ)第11188号,平15年(ワ)第6629号 各独占禁止法

違反行為に対する差止請求事件

口頭弁論終結日 平成16年3月10日

判       決

大阪府泉佐野市中庄869番地4

原       告   エアーポートプレスサービス株式会社

同代表者代表取締役   倉澤 巳代二

同訴訟代理人弁護士   池上 徹

同           岡野英雄

同           布施 裕

同           宮永尭史

同           宮野皓次

大阪府泉佐野市中町三丁目3番1号

被       告   関西国際空港新聞販売株式会社

同代表者代表取締役   宮崎一衛

同訴訟代理人弁護士   志田至朗

大阪市北区豊崎二丁目4番13号

被       告   株式会社新販

同代表者代表取締役   山越 壽

同訴訟代理人弁護士   塚本宏明

同           魚住泰宏

同           長澤哲也

同           浅田和之

大阪市北区野崎町5番9号

被       告   株式会社大読社

同代表者代表取締役   與田 規矩男

同訴訟代理人弁護士   寺上泰照

同           岩下圭一

同           佐藤水暁

同           生天目 麻紀子

大阪市北区梅田二丁目5番2号

被       告   関西地区新聞即売株式会社

同代表者代表取締役   田村正希

同訴訟代理人弁護士   池口 毅

同           熊谷尚之

同           高島照夫

同           川上 良

同           石井教文

同           吹矢洋一

大阪市北区梅田三丁目4番5号

被       告   株式会社近販

同代表者代表取締役   田中将博

同訴訟代理人弁護士   高 木 茂太市

同           里井義昇

同           佐藤泰弘

大阪市中央区大手前一丁目4番12号

被       告   日経大阪即売株式会社

同代表者代表取締役   石川弘毅

同訴訟代理人弁護士   米田秀実

同           高島志郎

同           小坂田 成 宏

主          文

 1 原告の請求をいずれも棄却する。

 2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 

被告関西国際空港新聞販売株式会社は,関西国際空港島の売店に対する新聞(朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞及び日本経済新聞)の販売及び関西国際空港島における航空会社に対する旅客機搭載用の新聞(朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞及び日本経済新聞)の販売をいずれも中止せよ。

2(1)

被告株式会社新販は,関西国際空港島における朝日新聞の販売のための原告からの新聞卸売取引の申込みを拒絶してはならない。

(2)

被告株式会社大読社は,関西国際空港島における読売新聞の販売のための原告からの新聞卸売取引の申込みを拒絶してはならない。

(3)

被告関西地区新聞即売株式会社は,関西国際空港島における産経新聞の販売のための原告からの新聞卸売取引の申込みを拒絶してはならない

(4)

被告株式会社近販は,関西国際空港島における毎日新聞の販売のための原告からの新聞卸売取引の申込みを拒絶してはならない。

(5)

被告日経大阪即売株式会社は,関西国際空港島における日本経済新聞の販売のための原告からの新聞卸売取引の申込みを拒絶してはならない。

第2 事案の概要
 本件は,新聞の販売等を目的として設立された株式会社である原告が,@被告関西国際空港新聞販売株式会社(以下「被告関空販社」という。)は,その余の被告ら及び日経大阪販売開発株式会社(以下「日経大阪販売開発」という。)による共同取引拒絶(私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」という。)19条,不公正な取引方法(昭和57年6月18日公正取引委員会告示第15号)(以下「一般指定」という。)1項)に加功したものであると主張して,被告関空販社に対し,独禁法24条に基づいて,関西国際空港島(以下「空港島」という。)の売店に対する新聞(朝日新聞,毎日新聞,読売新聞,産経新聞及び日本経済新聞。以下「全国紙」という。)の販売及び空港島における航空会社に対する旅客機搭載用の全国紙の販売の中止を求め,A被告関空販社を除く被告ら及び日経大阪販売開発は,原告が平成6年1月18日付けの書面によって全国紙の卸売取引を申し込んだにもかかわらず,共同して,正当な理由がないのに取引を拒絶した(独禁法19条,一般指定1項)と主張して,被告関空販社を除く被告らに対し,独禁法24条に基づいて,空港島における全国紙の販売のための原告からの新聞卸売取引の申込拒絶の差止めを求めた事案である。

当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実
(1) 当事者等

 原告は,新聞の販売等を目的として平成2年6月20日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は,1040株,資本の額は金5200万円である(甲3号証)。

 被告関空販社は,空港島内における航空機搭載の新聞,雑誌の販売,空港島内における売店での即売の新聞,雑誌の販売等を目的として平成5年10月8日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は2000株,資本の額は金1億円である(甲1号証の1)。

 被告株式会社新販(以下「被告新販」という。)は,主として西日本地区において,日刊新聞及びその他の新聞・出版物等の卸売及び小売等を目的として昭和36年9月19日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は8万株,資本の額は金4000万円である(甲2号証の1)。
 被告新販は,株式会社朝日新聞社の系列即売会社である。

 被告株式会社大読社(以下「被告大読社」という。)は,新聞の即売等を目的として昭和48年7月2日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は2万株,資本の額は金1000万円である(甲2号証の2)。
 被告大読社は,株式会社読売新聞大阪本社の系列の大手即売業者である。

 被告関西地区新聞即売株式会社(以下「被告関西即売」という。)は,新聞及び出版物の販売当を目的として昭和36年9月1日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は8000株,資本の額は金1000万円である(甲2号証の3)。
 被告関西即売は,株式会社産業経済新聞社大阪本社発行分の産経新聞について,同社から直接に新聞の卸売を受けている唯一の即売会社である。

 被告株式会社近販(以下「被告近販」という。)は,毎日新聞大阪本社管内(近畿,中国,四国,北陸)において全国諸新聞及び諸刊行物の即売等を目的として昭和36年10月25日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は2万4000株,資本の額は金1200万円である(甲2号証の5)。
 被告近販は,株式会社毎日新聞社系列の大手即売業者である。

(ア) 日経大阪販売開発は,昭和63年1月21日に設立された,新聞及び刊行物の購読の取次及び販売促進事業等を目的とする株式会社であり,発行済株式の総数は1000株,資本の額は金5000万円である(甲2号証の4)。
(イ) 被告日経大阪即売株式会社(以下「被告日経大阪即売」という。)は,新聞,書籍及び出版物の販売等を目的として平成10年9月22日に設立された株式会社であり,発行済株式の総数は600株,資本の額は金3000万円である(甲2号証の6)。
 被告日経大阪即売は,株式会社日本経済新聞社の系列の大手即売業者である。
被告日経大阪即売は,平成10年10月1日,日経大阪販売開発から,被告関空販社の株式400株を2000万円(1株当たり5万円)で買い受けた(乙オ1号証)
(2) 京阪神地区における新聞の流通経路等
新聞の流通経路には,大きく分けて実配と即売がある。
 実配とは,各地に存在する新聞販売店が顧客(一般家庭,会社等の月極購読者)に戸別配達によって販売するルートである。
 即売とは,駅及び空港の売店並びにコンビニエンスストア等を通じて不特定の顧客に販売されるルートである。航空機搭載用の新聞を航空会社及びケータリング会社に販売する場合は,即売に含まれる。
 京阪神地区において,即売ルートで流通する全国紙のほとんどすべてが,被告関空販社を除く被告らを経由して流通している(ただし,日本経済新聞については,平成6年当時,被告日経大阪即売ではなく日経大阪即売開発を経由していた。)。この際,上記被告らが直接売店等に販売する場合と,上記被告らが別の即売業者に販売し,その即売業者が売店等に販売する場合があり,売店等に販売されるまでに複数の即売業者が介在する場合もある。
(3) 被告関空販社の設立
 被告新販,同大読社,同関西即売,同近販及び日経大阪販売開発(以下「卸売5社」という。)は,平成5年10月8日,被告関空販社を共同で設立した。
(4) 本件各取引拒絶
 原告は,卸売5社に対し,それぞれ,平成6年1月28日付けの書面によって,空港島内において新聞の仕入・販売をしたいとして,新聞の卸売取引を申し込んだ(以下,総称して「本件各取引申込み」という。)。
 これに対し,卸売5社は,平成6年2月7日から3月10日にかけて,それぞれ,次のような理由を示して,原告からの本件各取引申込みを拒絶した(以下,総称して「本件各取引拒絶」という。)(甲6号証の27号証の28号証の29号証の210号証の2)。
 被告新販は,「弊社では,同空港内(関西国際空港の意味)での新聞販売につきましては,関西国際空港新聞販売株式会社を通して取引することにしています。」と述べた。
 被告大読社は,「その他の新聞(実配を除く意味)取扱いにつきましては,配送経費を含む諸経費や効率面を考慮し,関西国際空港新聞販売鰍ニ契約いたしております。従って,関西国際空港新聞販売鰍窓口といたしたく存じます。」と述べた。
 被告関西即売は,「当社は,既に関西国際空港島内での新聞販売につきましては,「関西国際空港新聞販売株式会社」と取引契約を交わす事に決定しております。」と述べた。
 被告近販は,「当社といたしましては,関西国際空港島内で弊社が取り扱う新聞,雑誌については,すべて関西国際空港新聞販売株式会社を窓口といたします。」と述べた。
 日経大阪販売開発は、「島内における搭載紙及び売店への即売につきましては,ユーザーへの安定供給と徹底した合理化の見地から設立されました「関西国際空港新聞販売株式会社」と取引することになっております。」と述べた。
(5) 原告から公正取引委員会への報告等

 原告は,平成6年6月8日,公正取引委員会に対して,被告関空販社及び卸売5社が独禁法違反行為をしていると報告し,その差止めを求めた(以下「本件報告等」という。)(甲5号証)。

 被告関空販社は,平成8年6月25日開催の株主総会において,同社の定款中,目的を次のとおり変更する旨を決議した(以下「本件定款変更」という。)(甲1号証の14号証)。
(ア) 「関西国際空港島内における航空機搭載の新聞,雑誌の販売」を,「関西国際空港島内における航空機搭載の新聞(全国紙)の仕訳,包装,配送,代金回収業務の受託と雑誌,スポーツ紙,夕刊紙,その他新聞の販売」と変更する。
(イ) 「関西国際空港島内における売店での即売の新聞,雑誌の販売」を,「関西国際空港島内における売店での新聞(全国紙)の配置,配送,代金回収業務の受託と雑誌,スポーツ紙,夕刊紙,競馬専門誌,その他新聞の販売」と変更する。
(ウ) 「関西国際空港島内における事業所,ホテル等への新聞,雑誌の販売業務の受託」を,「関西国際空港島内における事業所,ホテル等への新聞,雑誌の配達業務の受託」と変更する。

 卸売5社は,平成8年10月30日,公正取引委員会(事務総局近畿中国四国事務所)に対し,本件定款変更の事実及び「卸売5社が,今後空港島内においては各社それぞれに新聞販売事業を行うことを確認した」旨などを記載した報告書を提出した(甲4号証)。

 公正取引委員会は,平成8年12月25日付けの書面によって,原告に対し,本件報告等の件について調査した結果,独禁法上の措置は採らなかったが,独禁法違反につながるおそれのある行為がみられたので,独禁法違反の未然防止を図る観点から関係人に注意した旨を通知した(甲5号証)。

争点
(1) 原告適格及び訴えの利益の有無
(2) 被告関空販社についての共同取引拒絶の成否
(3) 被告関空販社を除く被告らによる本件各取引拒絶についての共同の有無
(4) 本件各取引拒絶の違法性の有無
(5) 著しい損害の有無

争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(原告適格及び訴えの利益の有無)について
 (被告関空販社,同大読社及び同近販の主張)

原告は,空港島における新聞販売等の実質的な業務を行っていない。

 株式会社なんばミヤタ(以下「なんばミヤタ」という。)は,原告に対して新聞を卸すだけにとどまらず,本来原告が遂行すべき空港島における新聞販売等の実質的な業務を遂行している。
 具体的には,本来,なんばミヤタが原告に対して新聞を卸す場合のなんばミヤタの業務・作業としては,仕入先である卸売各社から輸送される夕刊を受け取り,紙分けを行い,関西国際空港行きの電車で輸送して新聞を届けることで終了するはずであるにもかかわらず,なんばミヤタは,関西国際空港内駐車場スペースにおける紙分け作業,空港内保安区域車両運行証を携帯した車を使用しての配送,全日本空輸株式会社(以下「全日空」という。)機内搭載紙及び全日空売店への配送,空港内会社への宅配作業等の,本来原告が行うべき業務・作業まで引き続き行っている。

 そもそも,原告の商業登記簿上の本店所在地のどこを探しても,原告は存在していない。

以上のとおり,原告は何ら実体の存在しない会社であって本件訴訟の原告適格が欠缺しており,訴えの利益が存在しない。
(原告の主張)
争う。

 原告は,設立以来,新聞の販売業務(航空機の搭載紙,ラウンジ等への営業活動,売上げ・返品管理,請求,集金,入金管理,クレーム処理等)を行っており,新聞の仕入れと配達業務(新聞の仕分け,包装,配送,宅配業務等)をなんばミヤタに委託しているだけである。

 原告は,平成6年に実際の業務を行う場所を登記簿上の本店所在地から移転したものであり,登記簿上の本店所在地には事務所がないが,実体を有し,税金も支払っている。
(2) 争点(2)(被告関空販社についての共同取引拒絶の成否)について
(原告の主張)

 卸売5社は,被告関空販社を空港島における全国紙の唯一の一手取扱業者とする方法によって,空港島における全国紙の取引を事実上同被告に独占させた。この独占の利益は,被告関空販社の共同設立者である卸売5社に還流すること並びに被告関空販社の設立の趣旨,役員構成及び運営の実情に照らし,同被告の取引は,卸売5社の取引と同一視すべきものである。そして,そのために,原告は全国紙を卸売5社から仕入れることができなくなったものである。
 卸売5社は,単純に共同して原告に対して卸売を拒絶したのではなく,空港島では被告関空販社を通じてのみ取引をし,被告関空販社は空港島での販売市場独占の利益を占めるという態様で卸売を拒絶したものである。
すなわち,被告関空販社の存在と協働によってのみ,被告らの共同取引拒絶の実効性が確保されるといえる。
 したがって,被告関空販社も,卸売5社と共同して取引を拒絶したものである(一般指定1項)といえる。

 被告関空販社は,空港島において,全国紙を独占的に販売している。すなわち,空港島における全国紙の販売市場においては,私的独占が行われている。 独禁法24条は,独禁法が目的とする公正自由な市場を維持する責任を私人にも分担させることにより,よりいっそう独禁法違反を抑制するために,不公正な取引方法の差止めを認めている。ここにいう「不公正な取引方法」とは,結果としてある市場において私的独占状態を形成又は維持するために,事業者等が行う行為であるところ,空港島においては,既に被告関空販社が全国紙の販売に対する私的独占を完了しているから,原告は,その差止め(具体的には被告関空販社による全国紙の販売の差止め)を求めることができると解すべきである。
(被告関空販社の主張)
 被告関空販社は,原告に対して,卸売5社と共同して取引を拒絶したことはない。
 被告関空販社は,卸売5社とは別個独立の事業者であり,同被告を除く
被告らが被告関空販社の株主であるからといって,同被告の取引が,卸売5社の取引と同一視されるべきいわれはない。
 共同取引拒絶(一般指定1項)は,「自己と競争関係にある他の事業者」との共同を要件としているところ,被告関空販社は,全国紙の卸売事業を行っておらず,卸売5社と何ら競争関係にない。
 したがって,被告関空販社について,卸売5社との共同取引拒絶は成立し得ない。
(3) 争点(3)(被告関空販社を除く被告らによる本件各取引拒絶についての共同の有無)について
(原告の主張)
被告関空販社を除く被告らは,共同して本件各取引拒絶を行った。
(被告関空販社を除く被告らの主張)
否認する。
(4) 争点(4)(本件各取引拒絶の違法性の有無)について
(原告の主張)
公正競走阻害性
(ア) 被告らの主張アの事実のうち,原告が,被告関空販社を除く被告ら(ただし,平成6年当時は,日本経済新聞については,被告日経大阪即売ではなく日経大阪販売開発。以下,総称して「被告卸売会社ら」という。)から全国紙を仕入れることができなくても,多寡を問わなければ,他の業者から全国紙を仕入れることができること及び原告がなんばミヤタから全国紙を仕入れていることは認める。
 ただし,なんばミヤタからの仕入れはいつ止まるか分からない。また,朝日新聞,読売新聞,産経新聞及び毎日新聞の泉州版については,被告卸売会社ら以外の卸売業者から仕入れることができていない。
(イ) 被告卸売会社ら以外の即売業者から新聞を仕入れると,被告卸売会社らから直接仕入れるよりも原価が5パーセント割高となるため,本件各取引拒絶によって,原告の利益が少なくなる。
本件各取引拒絶の継続
被告関空販社は,現在も,従前どおりの新聞販売行為を継続している。
(被告らの主張)
公正競走阻害性
 原告は,被告卸売会社らから全国紙を仕入れることができなくても,被告卸売会社らから新聞を仕入れる他の即売業者から新聞を容易に仕入れることができる。現に,原告は,なんばミヤタから全国紙を仕入れている。
本件各取引拒絶の効果の消滅
(ア) 被告関空販社は,本件定款変更以降,空港島における新聞販売業務を行っていない。被告卸売会社らが,自ら,空港島における販売活動,営業活動を行っている。
 被告関空販社の第7期(平成11年4月1日から平成12年3月31日まで)の「決算報告書」(甲13号証)中の損益計算書には,純売上高として,「新聞売上高(1)」「新聞売上高(2)」といった科目が計上されているが,「新聞売上高(1)」とは,全国紙の朝夕刊についてのものであり,「新聞売上高(2)」とは,スポーツ紙,英字紙,夕刊専門誌,競馬紙についてのものである。
 被告関空販社は,平成8年7月以降,全国紙の新聞販売業務をやめ,卸売5社から全国紙の配送及び代金回収等についての業務を受託することとなったが,取引先からは,新聞代金の請求については,卸売5社から個別に行うのではなく,従来どおり被告関空販社名義で一括して行われたい旨の強い要請を受けた。また同被告としても,新聞代金の請求を卸売5社から個別に行うこととすると,従来の販売及び仕入先に対する経理処理をコンピューターシステムを含め一括して変更する必要があったが,それを行うとすれば人的あるいはコスト的に過大な負担が見込まれ,その実施余力に乏しかった。
 しかし,被告関空販社の決算上,少なくとも受託業務分とそれ以外の新聞の売上げとを明確に区別しておく必要があると考えられたことから,第5期(平成9年4月1日から平成10年3月31日まで)決算から,損益計算書上,受託業務分については「新聞売上高(1)」「新聞仕入高(1)」として,それ以外の新聞については「新聞売上高(2)」「新聞仕入高(2)」として計上することとした。
 その後,平成13年10月に経理処理を含むコンピューターシステムソフトのリース期間が満了し,平成14年1月から新システムが本格稼動を始め,事務処理の負担が相当軽減されることとなり,同年6月には社長が交代したことなどもあって平成15年4月に経理処理を変更し,受託業務については受託料収入として計上することとなった。
(イ) 仮に本件各取引拒絶が共同取引拒絶であるとしても,上記のとおり,被告関空販社は,本件定款変更によって,全国紙の仕訳,包装,配送等の受託業務を行っているにすぎないから,既に共同取引拒絶の効果は消滅している。
(5) 争点(5)(著しい損害の有無)について
(原告の主張)
 本件各取引拒絶がなければ,原告は,被告卸売会社らから定価の70パーセントの価格で全国紙を仕入れることができるのに,本件各取引拒絶によって,定価の75パーセントの価格で全国紙を仕入れざるを得なくなっている。したがって,本件各取引拒絶によって,5パーセントのマージンを得ることができなくなっている。
 上記損害(得べかりしマージン)の額は,平成7年3月期から平成15年3月期までの間で合計6915万0650円である。
 本件各取引拒絶がなければ,原告は,空港島の新聞販売市場において,50パーセントのシェアを占めることができたはずであるが,本件各取引拒絶がされたために,売店等に対する販売については3.8パーセント,航空会社に対する販売については9.09パーセントのシェアを占めるにとどまっている。
 上記損害(原告が50パーセントのシェアを占めて得るはずであった利益)の額は,平成6年9月から平成15年3月期まで間で合計2億1841万9500円である。
原告は,本件各取引拒絶によって,次のとおりの損害を被っている。
(ア) 全国紙(日本経済新聞を除く。)泉州版(以下「泉州版」という。)の仕入れに関わる損害

1796万8000円

 原告は,平成6年から現在までの間,泉州版を駅売店等で購入して取引先へ販売している。本件各取引拒絶がなければ,定価の70パーセントの代金で仕入れることができるから,その差額が損害となる。
 また,アルバイト等仕入れのための経費も損害となる。
(イ) 事務所経費 

3360万円

 原告は,平成6年から平成9年9月までの間,空港島で新聞を販売するため,会社事務所を大阪府泉佐野市内に開設し,従業員を3名分に雇用していた(3名文の給料及び事務所賃借料)。
(被告関空販社,同大読社,同関西即売及び同近販の主張)
否認ないし争う。
 原告が被告らの独禁法違反行為によって侵害されたと主張している空港島における新聞販売等の業務は,実質的にはなんばミヤタが遂行しているものであって,原告に「著しい損害」が発生していないことは明白である。
(被告新販及び同日経大阪即売の主張)   
否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断

 前記第2の1の事実に関係証拠(甲2324号証)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。
(1) 京阪神地区における新聞の流通経路等
新聞の流通経路には,大きく分けて実配と即売がある。
 実配とは,各地に存在する新聞販売店が顧客(一般家庭,会社等の月極購読者)に戸別配達によって販売するルートである。
 即売とは,駅及び空港の売店並びにコンビニエンスストア等を通じて不特定の顧客に販売されるルートである。航空機搭載用の新聞を航空会社及びケータリング会社に販売する場合は,即売に含まれる。
 京阪神地区において,即売ルートで流通する全国紙のほとんどすべてが,被告卸売会社らを経由して流通している。この際,被告卸売会社らが直接売店等に販売する場合と,被告卸売会社らが別の即売業者に販売し,その即売業者が売店等に販売する場合があり,売店等に販売されるまでに複数の即売業者が介在する場合もある。
(2) 原告の本件各取引拒絶前の新聞販売状況
 原告は,平成4年6月1日から平成6年3月31日までの間,地元区域販売店から全国紙等を仕入れ,新聞販売機で販売していた。全国紙各紙の販売部数は,次のとおりである(甲23号証)。

@ 朝日新聞 6040部(1か月平均274部(小数点以下切捨て。以下同じ。))

A 産経新聞 6040部(1か月平均274部)

B 毎日新聞 5920部(1か月平均269部)

C 日経新聞  880部(ただし,平成5年10月から平成6年3月までの6か月間)

D 読売新聞 5920部(1か月平均269部)

(3) 被告関空販社の設立当初の活動
 被告関空販社は,空港島における販売窓口一本化のために設立され,当初,卸売5社から一手に空港島向けの全国紙を仕入れ,これを空港島内の売店,空港会社等に販売していた。
(4) 本件各取引拒絶
 卸売5社は,平成6年2月7日から同年3月10日にかけて,それぞれ,空港島における新聞の販売については被告関空販社を通して行うことを理由として,原告からの本件各取引申込みを拒絶した。
(5) 本件定款変更

 被告関空販社は、平成8年6月25日開催の株主総会において,目的から新聞の販売を除外し,代わって新聞の仕訳、配送、代金回収業務等の受託を目的に加える本件定款変更を決議した。

 卸売5社は、平成8年10月30日、公正取引委員会(事務総局近畿中国四国事務所)に対し、本件定款変更の事実及び「卸売5社が、今後空港島内において各社それぞれに新聞販売事業を行うことを確認した」旨などを記載した報告書を提出した。
(6) 原告の本件各取引拒絶後の新聞販売状況
 原告は、本件各取引拒絶後から現在に至るまで、なんばミヤタから、全国紙を定価の75パーセントの価格で仕入れ,空港島において、売店・ラウンジ等に対して1か月平均約800部を、全日空に対して1か月平均約3万部を、いずれも定価の80パーセントで販売している(甲24号証、弁論の全趣旨)。

2 争点(1)(原告適格及び訴えの利益の有無)について
 本件訴訟は、原告が被告らに対して、独禁法24条に規定する差止請求権に基づき、被告らに利益侵害の停止又は予防を請求する給付訴訟であるところ,原告は,本件訴訟の訴訟物である差止請求権を有すると主張する者であるから、原告適格が認められる。また、本件全証拠によっても、訴えの利益を否定すべき事情は認められない。
 これに対して、被告関空販社、同大読社及び同近販は、原告が,空港島における新聞販売等の実質的な業務を行っていないとして原告適格及び訴えの利益が認められないと主張するが,原告が新聞販売等の実質的な業務を行っているか否かは本件訴訟の原告適格及び訴えの利益を何ら左右しないから、上記主張は採用することができない。
 また、上記被告らは、原告の商業登記簿上の本店所在地に事務所が存在しないことから,原告は存在しないなどと主張するが、前記第2の1(1)アのとおり、原告は平成2年6月20日に設立された株式会社であり,弁論の全趣旨によれば、原告が解散して法律上消滅したものではないことが明らかであるから、理由がない。

 3 争点(2)(被告関空販社についての共同取引拒絶の成否)について
(1)  一般指定1項は、「自己と競争関係にある他の事業者」と共同してする取引拒絶について規定しているところ、前記第2の1(3)、第3の1(3)のとおり、被告関空販社は、平成5年10月8日、空港島における販売窓口一本化のために設立され、本件各取引拒絶当時、卸売5社から一手に空港島向けの全国紙を仕入れ、これを空港島内の売店、航空会社等に販売していた事業者であるから、卸売5社と競走関係にはなかった。
 したがって、本件各取引拒絶について被告関空販社と卸売5社との間において意思の連絡があったとしても、被告関空販社について一般指定1項に基づく共同取引拒絶は成立しない。
(2)  これに対して、原告は、被告関空販社の新聞販売による利益が卸売5社に還流すること並びに設立の趣旨、役員構成及び運営の実情に照らして,同被告のする取引は、卸売5社のする取引と同一視すべきものである、卸売5社は、被告関空販社を通じてのみ取引をすることにより、同被告は空港島での販売市場独占の利益を収めるという態様で取引を拒絶したものであり、同被告を介在させ協働することによってのみ、卸売5社の共同取引拒絶の実効性が確保される、などとして、被告関空販社についても一般指定1項に基づく共同取引拒絶が成立する旨主張する。
 しかしながら、仮に原告主張の事実関係が認められたとしても、個別の法人格を有する主体である被告関空販社を卸売5社と同一視して共同取引拒絶の主体と見ることはできないのであるから、原告の上記主張は採用することができない。
(3)  また、原告は、空港島においては、既に被告関空販社が全国紙の販売に対する私的独占を完了しているから,原告は私的独占状態を維持する行為である全国紙の販売の差止めを求めることができると主張するが,独自の主張であって採用することができない。

4 争点(3)(被告関空販社を除く被告らによる本件各取引拒絶についての共同の有無)について
 被告日経大阪即売は、本件各取引拒絶後に設立されたものであり、本件各取引拒絶を行っていないことは明らかである。

5 争点(5)(著しい損害の有無)について

(1)

 そもそも、独禁法によって保護される個々の事業者又は消費者の法益は、人格権、物権、知的財産権のように絶対権として保護を受ける法益ではない。
 また、不正競走防止法所定の行為のように、行為類型が具体的ではなく、より包括的な行為要件の定め方がされており,公正競争阻害性という幅のある要件も存在する。すなわち、幅広い行為が独禁法19条に違反する行為として取り上げられる可能性があることから、独禁法24条は、そのうち差止めを認める必要がある行為を限定して取り出すために、「著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるとき」(以下「著しい損害」という。)の要件を定めたものと解される。

(2)

 これを本件についてみるに、前記1(6)のとおり、原告は、本件各取引拒絶後から現在に至るまで、なんばミヤタから,全国紙を定価の75パーセントで価格で仕入れ,空港島において,売店・ラウンジ等に対して1か月平均約800部を、全日空に対して1か月約3万部を,いずれも定価の80パーセントで販売しているものであり、本件全証拠によっても,本件各取引拒絶によって,原告が市場に参入できなくなった若しくはそのおそれがあった、又は市場からの退出を余儀なくされている若しくはそのおそれがあるなど、本件各取引拒絶を差し止める必要性を基礎づける事情は認められない。

(3)

 「著しい損害に」について、原告は、本件各取引拒絶がなければ、被告卸売会社から定価の70パーセントの価格で全国紙を仕入れることができるのに、本件各取引拒絶によって、定価の75パーセントの価格で全国紙を仕入れざる得なくなっているから、5パーセントのマージンを得ることができなくなっている旨主張する。
 しかしながら、前記アの「著しい損害」を要件とする規定の趣旨等に照らせば、前記イのように既に市場に参入し5パーセントとはいえマージンを得ている原告が単に共同取引拒絶がなければより大きい利益を上げることができたというだけでは、差止めを認めるに足りる「著しい損害」に当たるとはいえないというべきである。

(4)

 また、原告は、本件各取引拒絶がなければ、空港島の新聞販売市場において、50パーセントのシェアを占めることができたはずであるが,本件各取引拒絶がされたために、売店等に対する販売については、3.8パーセント,航空会社に対する販売については、9.09パーセントのシェアを占めるにとどまっている旨主張する。
 しかしながら、前判示のとおり、単に共同取引拒絶がなければより大きい利益を上げることができたというだけでは、差止めの要件としての「著しい損害」は認められないというべきであるから、上記主張には理由がない。もっとも、本件全証拠によっても、本件各取引拒絶がなければ,原告が空港島において少なくとも50パーセントのシェアを占めることができたはずであるという事実自体認められない。

(5)

 さらに、原告は、泉州版を駅売店等で購入して販売していることによる損害を「著しい損害」の内容をなすものとして主張する。
 しかしながら、本件全証拠によっても原告が泉州版を駅売店等で購入して販売している事実を認めることはできない上、前記1(6)のとおり、原告は、空港島において,売店・ラウンジ等及び航空会社に対し,1か月平均合計約3万部を定価の80パーセントで販売して定価の5パーセント分の粗利を得ているのに対し,泉州版については、1日56部(1か月30日間で計算すると、1か月平均1680部となる。)を販売していると主張しているにすぎないのであるから、前記アの「著しい損害」を要件とする規定の趣旨等に照らせば、仮に泉州版を駅売店等で購入しているとしても、それだけでは、差止めの要件としての「著しい損害」は認められない。
 したがって、原告の上記主張は理由がない。

(6)

 以上の次第で,仮に本件各取引拒絶が一般指定1項に該当し,その違法状態が現在も解消されていないとしても、本件各取引拒絶によって、原告に「著しい損害」があるものとは認められない。

6 結論
 よって、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して主文のとおり判決する。

      大阪地方裁判所第4民事部

              裁判長裁判官   揖  斐     潔

                 裁判官   永  井  裕  之

                 裁判官   齋  藤     毅


 こ れ は 正 本 で あ る。

      平成16年6月9日

        大阪地方裁判所第4民事部

             裁判官書記官    杉田繭美