平成16年 (ネ)第2179号独占禁止法違反行為に対する差止請求控訴事件
控  訴 人 エアポートプレスサービス株式会社
被 控 訴人  関西国際空港新聞販売株式会社 外5名

控 訴 理 由 書

平成16年8月6日

大阪高等裁判所第2民事部4係 御中

                             控訴人訴訟代理人 弁護士  池   上       徹

                                  同      弁護士  岡   野   英   雄

                                  同      弁護士  布   施        裕

                                  同      弁護士  宮   永   堯   史

                                  同      弁護士  宮   野   皓   次

 原判決には、事実認定及び法令の解釈適用につき誤りがあるので、破棄を免れないと思料する。
原判決は、
(1)   京阪神地区において、販売ルートで流通する全国紙のほとんどすべてが、被控訴人卸売会社5社(新販、大読社、関西販売、近販、日経大阪販売開発、以下「卸売5社」という)を経由して流通していること
(2)   被控訴人関空販社(以下「関空販社」という)は、空港島における販売窓口一本化のために(卸売5社によって)設立され、当初卸売5社から一手に空港島向けの全国紙を仕入れ、これを空港島内の売店、航空会社等に販売していたこと
(3)  卸売5社は、平成6年2月7日から同年3月10日にかけて、それぞれ空港島における新聞の販売については、関空販社を通して行なうことを理由として、控訴人からの本件各取引申込みを拒絶したこと
を認定した。
  この事実を前提とすれば、原判決は明言することを避けてはいるものの、卸売5社が、共同取引拒絶を行ったことは明らかである。
  その理由は、卸売5社の取引拒絶の理由が関空販社の存在を理由とするものであること、そしてその関空販社を設立したのが、卸売5社であることから、卸売5社の共同性に疑問の余地がないからである。
 ところで、原判決は、被控訴人日経大阪卸売が本件各取引拒絶後に、設立されたものであり、本件各取引拒絶を行っていないことは明らかであるとする。
  しかし、被控訴人日経大阪即売は、被控訴人日経大阪販売開発を引継いで、日経新聞を一手に販売する為に設立された会社であり、実質的な経営には何らの変更もなされていないのであるから、被控訴人日経大阪即売がなした控訴人との取引拒絶の方針を引継いでいるものであり、本件差止請求の相手方たる地位を引継いだものとして、差止請求を受ける被告適格があるというべきであって、単に会社の設立時期のみで、同社に対する差止請求を棄却したのは重大なる事実誤認である。
  原判決は、独禁法第24条の要件である「著しい損害を生じ、又は生ずるおそれがあるとき」(以下「著しい損害」という)が定められた理由を、
「独禁法によって、保護される個々の事業者又は消費者の法益は、人格権、物権、知的財産権のように絶対権としての保護を受ける法益ではない。また、不正競争防止法所定の行為のように、行為類型が具体的でなく、より包括的な行為要件の定め方がされており、公正競争阻害性という幅のある要件も存在する。すなわち、幅広い行為が独禁法19条に違反する行為として取り上げられる可能性があることから、独禁法24条は、そのうち差止めを認める必要がある行為を限定して取り出すため」
としている。
  しかし、これに対しては学説上、次のような批判がある。
  すなわち、立法関係者の説明を総合すると、この「著しい損害」要件を課した理由として考えられるのは以下の2点に要約されよう。
  第1点は民法の原則に従って条文化したことである。すなわち、通説的な見解によれば、不法行為の被害者に対する救済は事後的な金銭賠償を原則としており、例外的に差止請求を容認する場合にはより高度な違法性が必要であると解されており(違法性段階論)、そのことを明示するものとして「著しい損害」という用語を用いたとするのである。更に、直接的な参考規定としては「取締役の法令・定款違反行為に対する監査役の差止請求権」に関する「商法」代275条ノ2があり、そこでは「会社ニ著シキ損害ヲ生ズル虞アル場合」に差止請求を認めているとする。
  第2点は、不公正な取引方法による被害は不特定多数の者に及ぶために、小額の被害に対して差止請求訴訟を認めると社会的に弊害が生じるようなことが考えられるために、いわば濫訴を制限するために「著しい損害」要件を課したものとするのである。
 このような立法趣旨説明に対しては、以下のように批判することが可能である。すなわち、結論的に言うなら、差止め請求権が容認される民法の不法行為、知的財産権侵害及び不正競争防止法においても特段の損害要件が課されていないことを考慮する限り、これらよりも損害の程度が低いと考えられる独占禁止法違反行為による差止請求権についてのみ「著しい損害」要件が課されていることは、我が国の法体系上の整合性を欠き、不適切であるとするものである。
  この批判を分説するなら、
  第1に、ここで通説的な考え方とされる違法性段階論が、差止請求における違法性の程度が損害賠償の場合よりも高度であることを意味していると解釈することに対して疑問を呈した上で、この学説が意味するのは、せいぜい両者の違法性の程度が異なるものとして解釈すべきことを指摘しているに過ぎないとする立場に立つのである。その結果として、第24条に「著しい損害」要件を規定したことの意義が不明であるとする。
  第2に、商法第275条ノ2は会社内部の統制行為を問題としているために、特に違法性の程度が高い場合においてのみ差止請求が認められるものと解されているのであり、独占禁止法違反行為による被害に対する場合とは、情況を異にしていることである。
 第3に、極めて小額な被害を被った者が差止請求訴訟の原告適格を有することを阻止するために、このような過重な要件を課したとする説明に対しては、そのような少額の被害しか生じない独占禁止法違反行為は、「利益の侵害」要件を満たさないことを考慮する限り、このような説明も正当な根拠となりえないとするのである。
  以上のような、批判論をベースとして「著しい損害」要件の実質的な機能性に言及するなら、この規定が特別の要件を意味するものと解釈することは差止請求訴訟の原告適格を制限的に解することになり、本制度の実効性を阻害することになるのは明らかである。そこで、この要件を一般条項として理解し、独占禁止法が差止請求制度を創設することにより保護しようとしている利益が侵害された場合のみ、差止請求権を認めることを意味するものと解するのが穏当である、というのである。(谷原修身「独占禁止法と民事的救済制度」)
 一方、立法関係者によれば、この「著しい損害」の要件は、「差止めを認めると非常に困った事態になる。加害者にあまり大きなコストを負担させることになるとか、社会的なコストが大きいという場合に差止めを我慢してもらう」ためのものであり、また「独占禁止法違反行為で事実上損害を受ける人が無数になり、その中で非常に損害が希薄な人が訴訟を起こしてきたときに・・・」原告適格を絞るという機能を果たすものとされている(古城誠)。しかし、せっかく差止請求制度を入れたのに、この要件があることによって訴訟が抑制されてしまうことが非常に懸念されている(根岸哲)。そして「著しい損害」という要件を理由として差止を認めないということは、よほどの場合でないとできないのではないか(古城誠)との期待的発言もあるところである(公正取引597、座談会「民事救済制度の整備について」における発言)。
  よって、独禁法24条の「著しい損害」の判断については、原判決のように単純な基準ではなく、相手方の違法性の程度・態様、相手方が差止めによって蒙る損害の程度、差止請求者が蒙っている損害及びその程度を比較考慮して判断すべきである。
  すなわち、本件において、卸売5社が、独禁法違反の行為(共同取引拒絶)を行なっていたことに対して、公正取引委員会は、平成8年12月25日付の書面(甲第5号証)によって、控訴人に対し、調査の結果、独禁法上の措置は採らなかったが、独禁法違反につながる虞がある行為がみられたので、独禁法違反の未然防止を図る観点から関係人に注意した旨を通知してきた。
  しかしながら、被控訴人らは、平成8年6月25日開催の株主総会において、関空販社の定款を「全国紙の販売」から「全国紙の仕訳、包装、配送、代金回収業務」に変更した(甲第4号証)にもかかわらず、以後も全国紙の販売を継続していることは、控訴人が原審において提出した証拠によって明らかであり、これは公正取引委員会を欺く悪質な行為といわざるを得ない。
  次に、控訴人が求める本件差止請求が認められたとしても、卸売5社には何らの不都合も生じないはずである。つまり、卸売5社は関空販社に売るべき全国紙の一部を控訴人に売るだけであり、何らの損害(控訴人は卸売5社に全国紙の取引を求めているだけであり、関空販社より低い価格で売却せよとまでは求めていない)も生じない。
  最後に、本件共同取引拒絶によって、控訴人は空港島内における全国紙の販売につき、常に納入打ち切りの不安をかかえたままであり、販路の拡大がはかれないことはもちろんのこと、販路の維持さえ危うい状況にある。
  この点、原判決や被控訴人らは、控訴人が訴外「なんばミヤタ」から現に全国紙を仕入れているのではないかという。しかし、「なんばミヤタ」は控訴人に全国紙を売却していることを理由に、卸売5社から仕入れストップの圧力を受けており(甲第23号証、資料bP4.15)、いつ卸売5社が「なんばミヤタ」に全国紙の卸売を中止するか予断を許さない(ただし、その場合には独占禁止法違反が顕著となって、公正取引委員会から勧告を受ける可能性もある為、卸売5社は躊躇している状況である)。
 即ち、控訴人は空港島内における全国紙の販売については、いわゆる「ジリ貧」の状況に追い込まれており、いつ撤退してもおかしくない事態に陥っているのである。
  又、原判決は、控訴人が蒙っている損害について、控訴人が「5パーセントとはいえマージンを得ている」ことを理由に「著しい損害」に当たらないというが、控訴人が蒙っているのは、卸売5社から仕入れることができれば得られるはすの10%のマージンが、「なんばミヤタ」からしか仕入れることができないために、5%のマージンしか得ることができないために、実に得べかりし利益の半分を失っているのであるから、たとえその「額」が少なくとも控訴人にとっては「著しい損害」である事を看過するものであり、零細企業である控訴人にとって死活問題であることの認識を欠く不当な判決であると判断せざるを得ない。
  以上述べた理由により、控訴人には独禁法24条の「著しい損害」があるというべきであり、この点の判断を誤った原判決は破棄されるべきである。