平成14年2月1日号


1ページ

 

  


20回「山片蟠桃賞」決定

受賞者ジョン・ダワー博士

贈呈式 3月28日 大阪国際会議場


日本文化の海外への紹介に功績のあった優れた著作及びその著者を顕彰し、併せて大阪の国際都市としての役割と文化・学術の国際性を高める山片蟠桃賞の第  回受賞者に米国マサチューセッツ工科大学教授のジョン・ダワー博士(六三)にこのほど決まり、贈呈式及び同博士の記念講演が来る三月二十八日、大阪国際会議場(大阪市北区中之島)で行われる。

 

・贈呈理由・

 戦後の日本を論じた書物は、周知のようにそれこそ数限りがない。敗戦と占領、政治的混乱と経済的復興についての物語も膨大な量にのぼる。

 しかしながら、その日本の「敗北」の意味と、この「敗北」を生きた戦後日本人の生活の現実を、これほど立体的に見事に描き出した研究はこれまでなかったのではないだろうか。

 著者のジョン・ダワー博士は現在マサチューセッツ工科大学の歴史学教授で日本近代史研究の第一人者である。すでに「吉田茂とその時代」や「人種偏見」などの優れた著作で日本の読者にもなじみが深い。

 その鋭い洞察力と広角レンズの批評、そして時にユーモラス、時にシニカルな美しい文章には定評があった。博士はそれらの業績によってすでに数多くの受賞歴を持つが、今度の作品「The New Press」(邦訳・敗北をだきしめて)ではピュリッツァー賞に輝いている。

 叙述の対象は、敗戦からサンフランシスコ平和条約による独立までの日本と日本人である。七年にわたる占領政策の功罪を客観的に分析しつつ、戦争責任に関する日本人の道義感覚の不徹底を衝くといった手法が目をひくが、それは日本文化の心臓部を静かに対象化しうるアメリカ人の歴史家であって初めて可能になったものであろう。

 

占領政策の功罪を客観的に分析、戦争責任に

関する日本人の道義感覚の不徹底を鋭く衝く

 

 十年近い丹念なリサーチの積み重ねによって、屈辱と飢えと貧しさの中でしたたかに生きのびていく日本人の姿を鮮やかに浮き彫りにされている点も印象的である。

 一方にタバコ、ストッキング、化粧品とアメリカ的消費文化を先駆的に受容したとされる「パンパン」などの行動にも注意を喚起し、他方に新憲法の制定や東京裁判のプロセスに冷静なメスを入れ、さらにマッカサーと昭和天皇の間に展開された心理的ドラマを明らかにしていく。

 こうして日本人は、「敗北」を単に受容しアメリカ流の「民主主義」に同化したのではない。また、その「敗北」を一挙に克服して全く新しい戦後の道を歩み出したのでもなかった。そうではなくて、「敗北」の意味をふところ深く抱き締め、その事を通してつばぜり合う文明の壁を乗り越えようとしたのだと言っているのである。

 そのユニークな議論はこれまで誰もがなし得なかったものであり、その鋭い視点もまた前人未踏の鉱脈を探り当てているのである。

・主な著作・

 The Elements of Japanese Design ・A Handbook of Family Crests・ Heraldry・and Symbolism・ NewYork・ Tokyo・ Weatherhill・1971・(邦訳「紋章の再発見」白石かず子訳 京都・淡交社1980年)、Empire and Aftermath ・ Yoshida Shigeru and the Japanese 

 Experience・ 1878・1954 Cambridge・ Mass・ Harvard University Press・ 1979・(邦題「吉田茂とその時代」上下・大窪愿二訳 TBSブリタニカ 1981年、邦訳再版「吉田茂とその時代」上下・大窪愿二訳 中公文庫 1991年)、War Without Mercy ・ Racy and Power in the Pacific War・ NewYork・ Pantheon・ 1986年・(邦題「人種偏見」猿谷要監修 斎藤元一訳 TBSブリタニカ 1987年、邦訳再版「容赦なき戦争」猿谷要監修 斎藤元一訳 平凡社 2001年)など。

・略歴・

 一九三八年、米国ロードアイランド州ーィデンス市生まれ、五九年アマースト大学卒、六一年ハーバード大学で修士号取得、六二年・六三年金沢女子短期大学で英語講師、七一・七五年ウィスコンシン大学マディソン校で歴史学助教授、七二年ハーバード大学で博士号所得、九一年から現職に至る。

発行所:大阪ジャーナル