平成17年11月1日号
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 大阪府・大阪市及び(財)大阪科学技術センターでは創造的科学・技術の振興を図り、21世紀への新たな発展と明日の人類社会に貢献する事を目的に、昭和58年度から「大阪科学賞」を創設、以来科学・技術の研究、開発に貢献した第一線の研究者に毎年度同賞を贈っているが、23回目を迎える今年度の受賞者に大岩和弘・情報通信研究機構関西先端研究センター生体物性グループリーダー(四五)と下条真司・大阪大学サイバーメディアセンター教授(センター長=四七)の二人を選定し、11月1日に表彰式を大阪市西区の大阪科学技術センター8階大ホールで行った。両氏には表彰状と賞金200万円が贈呈された。

第23回(平成17年度)「大阪科学賞」表彰
             

「タンパク質モータ・ダイニンの作動機構に関する研究」
「インターネットの応用に関する実践的研究と学際的展開」


 今回の大岩氏の業績は「タンパク質モータ・ダイニンの作動機構に関する研究」で、その内容は・・・
  「生き物に見られる『動き』は、大きさ数10ナノメートルの『タンパク質モータ』と呼ばれる酵素(タンパク質)の働きにより作り出される。タンパク質モータはATPの加水分解によって得られる化学エネルギーを使って、それ自身とタンパク質フィラメント(アクチンや微小管)との間の滑り運動を行う。
  約40年前に発見されたタンパク質モータの一つ、ダイニンは、発見後しばらくは繊毛・鞭毛運動の力を発生する特殊な酵素と考えられていたが、今では全ての細胞の中にあって生命活動に欠かすことの出来ない働きをしている事が判っている。これほど重要で古くから知られていたにも関わらずダイニンの構造や運動の仕組みはまだ十分明かになっていない。
 受賞者らは、植物プランクトンの鞭毛から精製したダイニンを用いて、その運動の詳細な測定を行った。その結果、ダイニンは微小管に結合したまま、何回もATP分解を繰り返して、微小管の上を8ナノメートルの歩幅で飛び石を跳ぶように連続的に運動を続ける事が出来るという、それまで想像されていなかった特殊な性質を持つ事を発見した。
  また、電子顕微鏡観察とこれに続く画像処理によって、ダイニンの分子形態を数ナノメートルの精度で明かにした。特にATPの加水分解産物を放出する前後のダイニン分子の像を詳細に比較検討して、加水分解産物が放出されると分子全体で約15ナノメートルにも及ぶ大きな構造 変化が起こる事を明かにし、ダイニンの運動機構解明のための検証可能な仮説を提唱した。
  この研究成果は著名な国際的学術誌の表紙を飾る程注目され、世界のダイニン研究を新たな研究段階へと導き、ダイニンの運動機構の解明を大きく進歩させた。
  このように、受賞者は困難かつエレガントな研究を行い、ブレークスルーとなる成果を次々と挙げ、世界のダイニン研究を先導してきた。その業績は学術上特に優れたものである。今後も生物物理学分野における国際的リーダーの一人として、その活躍が期待されている」
  一方、下条氏の業績は「インターネットの応用に関する実践的研究と学際的展開」で、その内容は・・・
  「インターネットは今や生活、ビジネスのあらゆる側面で利用され、我々に取って無くてはならない存在になりつつある。
  しかし、そのルーツを辿って見ると、比較的小さな研究者のグループが研究のためのルーツとして使い始め、日々、様々な人々が少しずつ改良を重ねる事によって、広まっていった。
  受賞者らは我が国のインターネットの黎明期からその運用者として、また研究者として、そのめくるめく発展に関わってきた。その中でも今では当たり前となっている、コンピューターを用いて、映像や音声、文字などの情報を組み合わせて表示するマルチメディアシステムやインターネットを介して好きな時にコンテンツを楽しめるビデオオンディマンドシステムの研究開発に携わり、オブジェクト指向に基づく先進的なアーキテクチャ、品質制御を取り入れたアーキテクチャを提唱し、国際的にも高い評価を受けた。これらの研究成果は研究室内にとどまらず、産官学の連携を通じて、社会にも還元されている。例えば、平成7年のAPEC大阪会議ではNews On Demandシステムとして来阪する世界中の人々に公開された。
  また、平成9年の『気候変動に関する国際連合枠組み条約京都会議(COP3)』においてもそのノウハウは生かされ、会議の模様を世界中に配信するとともに、蓄積するシステムが構築された。これらの研究成果は最近ではグリッドと呼ばれる世界中の計算機や観測装置などをインターネットを介してシームレスに接続する技術の研究へと生かされている。
  受賞者らは大阪大学の有する世界最高性能の電子顕微鏡をインターネットを介して遠隔から観測し、データを解析し、共有するシステムを構築した。
  インターネットは個人の小さな貢献を情報通信を通じて世界中の人々があまねく享受出来るという21世紀の科学あるいは世界の進む一つの方向を示して来たが、受賞者らが出したこれらの結果は世界中の研究者が協力する新しい科学の在り方を示すものとして世界中から高く評価を受けている」

発行所:大阪ジャーナル